幼児期健忘

幼児期健忘(Infantile Amnesia)とは、一般的に言語能力の発達前の幼児期(0歳から3歳くらい)における記憶のほとんどまたは完全な喪失の現象を指します。幼児期健忘の特徴は、成人期になるとその時期の記憶をほとんど持っていないことです。

幼児期健忘が起こる原因はまだ完全に解明されていませんが、いくつかの理論が提唱されています。一つの理論は、幼児期の脳の発達段階に関連しています。幼児期は脳の発達の初期段階であり、神経回路の形成や結びつきの強化が進行しています。この時期の脳の構造や機能の変化により、幼児期の記憶は後の成人期にアクセスできなくなるとされています。

また、幼児期は言語能力の発達が進んでいないため、言語による意味の整理や表象の形成が不完全な状態で記憶が形成されることも影響していると考えられています。言語能力の発達により、後の成人期になると言語を使用して過去の出来事を再現することができるようになりますが、幼児期の記憶は言語能力の未熟さから再現されず、忘れられてしまうのです。

ただし、幼児期健忘は全ての記憶に影響を及ぼすわけではありません。特に感情的に強い経験やトラウマなど一部の出来事は、幼児期からの記憶として残ることがあります。また、幼児期の経験が後の発達や行動に影響を与えるという研究結果もありますが、それらは意識的な記憶ではなく、無意識のレベルでの影響とされています。

幼児期健忘のメカニズムや理由はまだ解明されていないため、現在も研究が進行しています。幼児期健忘に関する理解は、発達心理学認知心理学の分野で重要なテーマとなっています。